西側赳史さんへのインタビュー
1988年大阪府生まれ。関西学院大学を卒業後、双日株式会社での勤務を経て株式会社Encounter Japanを設立し、代表取締役に就任。また『現代メキシコを知るための70章」/明石出版 での執筆や、自治体や大学での講演活動、2021年度 高等専門学校デザインコンペティションの審査委員, 中小企業基盤整備機構 2022年・2023年度中小企業アドバイザー(新市場開拓)を務める。 ブログ:"世界を旅して、商社で働き、カレー屋で失敗し、メキシコで起業した20代を振り返る ” |
Q1: 現在、どんなビジネスをされていますか?
「ラテンアメリカと日本の新しい歴史を創り、人々の人生を豊かにする」ことを理念に、2016年に株式会社Encounter Japanを日本で立ち上げまして、メキシコ合衆国で子会社の二社を運営しています。メキシコ合衆国を中心に広告代理店業務や・動画・Web制作を行う他、日本食レストランを複数店舗経営する等しております。
また直近ではコロンビアでも現地法人を立ち上げる予定です。
Q2: 起業したきっかけは何だったのでしょうか?
幼い頃から、創業社長だった祖父の姿を見て「起業」に憧れていたことが前提としてあります。学生時代に熱中したサッカーでは全く芽が出ませんでした。サッカー選手としてスポットライトを浴びる人生が送れないのであれば、サッカー以外で夢中になれる何かを大学時代にずっと探していましたね。
20代前半に、1年半にわたって世界中を放浪した際にモロッコで輪投げ屋、コロンビアで寿司を売る等して旅行資金を道中で稼いでいました。異国の地で「1円を稼ぐ」ことの難しさと楽しさを経験して「将来は海外で起業しよう」と漠然と考えるに至りました。
その後、自身のコンプレックス払拭と中南米を舞台に働くことを目的に、双日株式会社に入社しました。双日での仕事は日々充実していたものの、ラテンアメリカで起業する目標を捨てきれず、2015年に退職し、自身の会社を創業しました。
Q3: なぜ、メキシコで起業しようと思ったのですか?
「ラテンアメリカで会社経営しよう」と夢見た学生時代から「メキシコで起業しよう」と具体的に考えたのは、世界中を旅する中でメキシコの魅力に惹かれたことは勿論ですが、日系企業が2010年以降、急激に進出している情報を入手し、メキシコというマーケットに商機を感じたことが理由です。2015年にトヨタ自動車がメキシコ新工場の建設を発表し、2017年には全日本空輸(ANA)が成田・メキシコシティ間の直行便を就航する等、製造業のみならず様々な業種の日系企業が当時、メキシコへ進出していたのです。
Q4: 最初の起業資金はいくら必要だったでしょう?
私は過去に一社潰してしまっているのですが、最初に26歳で立ち上げた株式会社Tokyo Divertidoの資本金は300万円でした。投資家の方、幼馴染の友人、そして私の3名が100万円づつ出資して事業を開始致しました。当時は日本のテレビ局から旅行番組の版権を購入し、メキシコのテレビ局へ販売の上、現地民放での番組放映を通じてメキシコからの訪日旅行販売に取り組みました。多くのメディアから取り上げられる等しましたが、売上・利益の獲得には至りませんでした。結果、残ったのは番組のスペイン語への吹替費用の請求書のみでした (笑)。
Q5: メキシコの起業環境について教えてください。
「起業環境」でいうと、残念ながらメキシコは恵まれた環境ではありません。創業期の政府からの各種サポートや、エンジェル投資家などへの税制優遇はないため、最初の数年間を資金的に乗り切ることが生き残りの鍵になると思います。また主言語がスペイン語であることから、言語の面でも日本人にとって苦労することも少なくありません。
一方で、メキシコというイメージの悪さから世界中の他国と比較してもメキシコは日本人の起業家は少なく、いまだにブルーオーシャンが拡がる市場であるため、多くの業種において商機は存在すると感じています。
Q6: メキシコでビジネスを行う際に困ったことは何でしょうか?また、起業する際の注意点は?
失敗談は数え切れないほどありまして、傷だらけですが(笑) 失敗を通じて色々と学習することができました。メキシコでは特に労務・税務周りでは落とし穴が多々あります。メキシコをはじめとした中南米では雇用者側が非常に守られた労働法が存在します。原則、無期雇用であることや従業員を退職させるときに支払う際にはペナルティが発生する等、日本や米国等と異なる労働法が存在します。
また税務も非常に煩雑で、様々な税金を毎月支払う必要が生じるため、注意が必要です。雇用、税務を通じて予想外の出費が突然発生することがあり、これによってキャッシュアウト寸前に陥った経験があります。
起業する際に注意すべき点としては、メキシコ国籍のパートナーを見つけることが非常に重要です。一方で、焦りは禁物ですのでじっくりとパートナー選定は行うべきでしょう。この際に、日本で起業する際にも同様ですが、パートナーが保有する株式比率については「これでもか」というくらい悩み、協議の上で決定すべきです。資本政策は基本的に後戻りできないので、十分に検討すべきです。
Q7: 起業してよかったと思うことは何ですか?
創業当初においては、起業しなければ出会えなかった人々との出会いは自身のモチベーションに直結しましたし、自身の人生が豊かになったと感じています。
また「何者でもない私たち」に仕事を任せて下さる方々の期待に応えることは、筆舌し難い素敵な経験でした。
現在では「ラテンアメリカと日本の新しい歴史を創り、人々の人生を豊かにする」ことを理念に、数名単位の個人競技ではなく、団体戦として80名の仲間と共に仕事する日々へと変わりました。
「起業して良かった」と振り返るには早すぎますし、道半ばなので恐縮ではありますが、自身で立ち上げたEncounter Japanという会社が、社会にとって価値ある存在になりつつあることが嬉しいですね。「Encounter Japanがある世界と、ない世界」の差分を意識して、より一層仲間たちと共に社会に貢献し、誰かの人生がより豊かになる取り組みを続けていきたいと考えています。
Q8: もし、今のビジネス以外に新らしくメキシコでビジネスをするとしたら、どんなことをしたいですか?
メキシコという市場のみを事業の舞台として考えず、隣国である米国市場も視野に入れてビジネスを立ち上げると思います。これまで私はメキシコ以南のラテンアメリカ市場ばかりを注目してきましたが、米国のマーケット規模は巨大ですし、地理的優位性を活かして米国を巻き込んだビジネスに取り組みたいですね。
また資金調達を行なって、潤沢な資金を投じてフィンテック業界への参入等においてもメキシコ市場は未だに魅力的であると感じています。
Q9: メキシコの日本熱はどんな感じでしょうか?日本のどんなものに興味を持っているのでしょうか?
ありがたいことに、メキシコ人の多くは親日家であり、日本に対してリスペクトを持った国民が多いです。世代問わず、日本のテクノロジーや食のクオリティに対しての印象は非常に良いですし、若い層からはアニメや漫画などに興味・関心を持つ方々も多々存在します。
またアメリカ合衆国の影響を受けて、メキシコでは現在日本食ブームの最中にあります。また2020年以降では「おまかせ」スタイルの寿司屋さんが急増しており、ラーメンの認知も浸透しました。これまではメキシコにおける日本食といえば、カリフォルニア・ロールが最たる人気商品でしたが、今後数年間で日本食の専門店がより一層増加するように見受けられます。
Q10: 最後に、これから起業しようと思う人たちへのメッセージをお願いします。
市場規模や言語、法規制や治安、現地人の国民性や国が抱える社会問題等、海外で起業する際には様々な情報を事前に調査することでしょう。当然、事前の市場調査を通じたこれらの情報入手も重要ではありますが、起業後に直面する問題は想定外のことばかりです。
躓かないことを避けることに力を注ぐよりも「断固として生き残る」ことを自分と約束して、長期戦を覚悟の上で挑戦してください。経済的に成功することだけでなく、その過程で出会った社内外の人たちが大きな財産になると思います。
海外の起業は、不測のトラブルや多種多様な困難もありますが、ロマンに溢れた挑戦だと思います。私も引き続き頑張りますので、日本人として、世界中のどこかで共に頑張りましょう。