海外起業家(北米編) 海外起業家インタビュー

海外起業家インタビュー(北米・カナダ編)久保克己さん

久保克己さんへのインタビュー

1973年、日本大学生産工学部土木工学科卒業。(株)建設技術研究所に入社。1991年退職後、カナダ・バンクーバーに渡る。 1992年、Suimon Engineering Canada Ltd を設立。バンクーバーとニューファンドランド州(カナダ東部)にバイオグリーンの設計・制作・設置・維持管理のための合弁会社を設立。 現在、日本と北米を結ぶ環境・建設技術情報の交換、双方のエンジニアリング会社のマッチング、広範囲に亘る国際交流の支援等の業務を実施。企友会(バンクーバー日系ビジネス協会)元会長

Q1: 現在、どんなビジネスをされていますか?

カナダの西海岸、ブリティッシュ・コロンビア州のバンクーバーで、インフラ整備や環境関連の技術調査会社を運営しています。

日本の官公庁や建設コンサルタントからの委託を受けて、北米の建設技術や施工の実態、問題点や改善点などを調べ、報告書を作成します。また、日本の環境改善技術をカナダに紹介し、技術移転のサポートなどもやっています。 そのほかにも、日本からの技術視察団に随行し、予定が順調に進むように事前の準備を含めて行程のアレンジをしたり、必要に応じて通訳をしたりといったサポート全般も行っています。 会社名は、Suimon Engineering Canada Ltd. です。

 

Q2: 起業したきっかけは何だったのでしょうか?

異文化の中で、旅行ではなくて「生活」をしてみたいという夢を若い頃から持っていました。日本では建設コンサルタントのエンジニアとして働いていましたが、仕事が面白くてあっという間に20年が過ぎてしまいました。 それでも、海外で生活するという夢は捨てきれず、44歳で退職してカナダへ移住しました。

当初は起業するつもりはなく、カナダで就職しようとあれこれ活動をしました。レジメを作り、30数社に送り、いくつか面接も受けました。 しかし英語力も十分ではなく、カナダの文化や建設業界のバックグラウンドにも疎いといったハンディキャップは大きく、就職は困難を極めました。そんな中、友人等の支援を受けながら、バンクーバーに会社を設立する話が持ち上がり、 私が代表となって日本と北米を結ぶ技術情報交流の会社を立ち上げました。

 

Q3: なぜ、カナダで起業しようと思ったのですか?

移住を検討していた当初は、必ずしもカナダでなければならないとは考えていませんでした。まずは合法的に働くことが比較的容易な国、移住のための門戸が広い国という観点で、対象となる国を探していました。 1980年代にはJICA(独立行政法人・国際協力機構)や東京都も海外への移住を支援するようなプログラムを持っていて、よく説明会などを開いていました。そこでの対象国はカナダ、オーストラリア、そしてニュージーランドでした。 自分で調べた結果も、同じようなものでした。オーストラリアは当時まだ白豪主義の影が色濃く残っていたようでしたし、ニュージーランドでは自分にできるような仕事があるのかどうか見当もつかず、結局消去法のような形で、 まだ訪れたこともなかったカナダを選択しました。

このビジネスを始めたのは、日本でこれに関連するような仕事を20年間やってきたという経験と、人の繋がりというバックグラウンドがあったためです。

 

Q4: 最初の起業資金はいくら必要だったでしょう?

約500万円ほどでした。

 

Q5: カナダの起業環境について教えてください。

カナダは先進国の中では珍しく第1次産業(農林水産業、鉱業等)が活発ですが、やはり就業人口のおよそ75%が従事しているのはサービス産業です。

そして中小規模の企業の多いことも特徴です。スモールビジネスに対する政府の支援もかなり充実していて、起業には向いている環境だと思えます。またやり直しがきく、 というような文化のある国ですので、困難に打ち勝つ強い意志さえあれば、起業を志す人にとっては恵まれたところだと思います。

 

Q6: カナダでビジネスを行う際に困ったことは何でしょうか?また、起業する際の注意点は?

やはり言葉の壁は大きく、とりわけ移住をしてきた最初の頃は、途方にくれることもしばしばありました。商習慣の違いや文化の違いなどもかなりの障壁ではありましたが、わかった振りをせず、諦めず、一つ一つ聞いて学んでいくことが大切だということを痛感しています。

起業して、会社を自分で運営していくということは、日本に居ても慣れてないことです。まして言葉や習慣の違う外国ではなお一層の困難が伴います。したがって、経済的に可能ならば、餅は餅屋に、つまりその道の専門家に任せられるようなところはお願いするのが得策であり、いい結果を生むものと思います。

また、仕事の上で現地のビジネスマンや政府の人と話す機会がありますので、母国(日本)の歴史や文化、経済の動向などについてよく学び、知っておくことはとても重要です。

 

Q7: 起業してよかったと思うことは何ですか?

まずは、いろいろな意味で自由があることです。

経済的には絶えずリスクがありますし、時間も必ずしも定時で割り切れるものではありません。しかし自分の工夫や努力、気持ちの持ちようで、状況を変えていくことのできる自由というものには、大きな価値があると思います。

また日本のサラリーマンの生活の中では、会う人も同業の人がほとんどでしたが、ここで起業したことで、日本ではおそらく会うことも無く生涯を終えただろうと思うような人々とも、会うことができました。それはただ「起業」ということではなく、海外の生活という環境の中で生まれた出会いです。

更に、海外で暮らしてよかったと思えることに、日本という国のよさが深く認識できたことがあげられます。

日本に居る時には考えもしなかったことですが、カナダでさまざまな国の人に触れ、さまざまな人々の暮らしや仕事ぶりを見る中で、正直で努力を惜しまず、粘り強く仕事に立ち向かう日本人のすばらしさや民度の高さを肌で感ずることができました。

 

Q8: もし、今のビジネス以外に新らしくカナダでビジネスをするとしたら、どんなことをしたいですか?

カナダは多様文化主義を執っていて、移住者の母国の歴史や文化を大切にするような行政指針を持っています。それで街にはさまざまな国の食材や料理、衣装等が溢れていますが、日本料理や太鼓の演舞、剣道や空手などの武道、日本のアニメなどがかなりの程度で関心の対象になっています。

こうしたことを考えると、ITの技術を使ったアニメのプロデュースや武道教室、日本食レストランなどが有望ではないでしょうか。日本食といっても寿司やてんぷらはすでに溢れているので、そうではなくて、日本の優しい家庭料理などが受けるのではないかと思われます。

私自身は日本の言葉やさまざまな分野での文化、ビジネスの習慣などをカナダ人に教えるようなビジネスに興味を持っています。

 

Q9: 最後に、これから起業しようと思う人たちへのメッセージをお願いします。

まずは、どんなことがあってもへこたれない、という心構えをいつも自分自身に言い聞かせておいて欲しいと思います。

海外での起業は大いに夢があり刺激に満ちていますが、もちろん大変なことも多く潜んでいます。 思いもよらない出来事に遭遇したり、壁にぶつかったりすることもしばしばです。そんな時、意気消沈したり諦めたりせずに冷静に対処できるようになれたら、海外での起業を成功に導ける一歩となるでしょう。

また、一定程度の英語の能力は必要ですが、それ以上の英語能力を磨く前に、まずもって正確な日本語と日本の歴史、日本の文化、日本の社会構造などについて、できるだけ勉強をしておくことが大切です。

英語は意志を伝達する道具ですが、伝達すべき内容が貧弱では相手と内容のある会話ができません。相手との良好な関係を築き、ビジネスをうまく進めるためには、信頼に足る中身を持っていなければなりません。

 

-海外起業家(北米編), 海外起業家インタビュー